僕達だけの天国 (13)
登校して真っ直ぐに、会長の下へと向かう。
普段は立ち入り禁止になっている屋上の鍵は、生徒会と職員室の2箇所で管理されている。
余り借りを作りたくは無い相手だが、今回ばかりは仕方ない。
誰の目にも付かない場所と言うのが他に思い浮かばなかった。
鞄の中に忍ばせた取引材料で手を打ってくれればいいのだが・・・。
『―――っん、・・ゃ、ダメだ、よ・・・』
『こんな朝から誰も来ねぇって・・ほら・・・・こっち、集中しろって――』
(・・・・・やっぱりかよ、ったくこの人達は!)
扉を前に中の様子を窺えば、案の定洩れ聞こえてくる妖し気な声。
一呼吸置いて、大きめにノックを響かせる。中から聞こえてくるバタバタと身支度を整える音に、知らず眉間に皺が寄る。
3分ほど待って再度ノックをすると、中から機嫌の悪そうな声と、少々上擦った声とのハーモニーで返事が返ってきた。
「星さん、済みません、上の鍵貸してもらえませんか?昼休みだけでいいんで」
「なんだ、隼弥かよ。お前ねぇ人の邪魔しといて何、その態度?」
「朝っぱらからこんなとこで盛ってる方が悪いんでしょ?いいから鍵、貸して下さい」
「ちょ、星くん!ごめんね、大沼くん・・・鍵って、どうしたの?珍しいね?」
不貞腐れて機嫌の悪さを隠そうともしない会長の頭を小突いた副会長の山崎が、頬を赤く染めたまま隼弥へと向き直る。
「・・・ちょっと、使わせてもらいたくて」
「へぇーー人の邪魔しといて、自分は屋上でしっぽりってか?」
「星くん!」
「そんなんじゃないですよ。星さんじゃないんですから・・・・あ、学園祭の予算割り振りの書類、昨年までの相対表と今年の大枠は作ったんですけど・・・必要なかったですか?」
隼弥の言葉の言質を取ったかのようにニヤリと笑う会長に、口角を僅かに上げて微笑みかける。
過去の資料を引っ繰り返して予算を組み直す作業は、思っている以上に骨が折れる面倒な仕事。会計に仕事を割り振るにしても、分かり易く大まかな配分を決めなければならない。
隼弥が翳したメモリーを見た星の表情が、途端ににこやなモノへと変化した。
「仕方ねぇなー鍵ね、鍵・・・ちっと待ってな」
「もう星くん!仕方ないじゃなくてありがとうでしょ?!」
感情の起伏は激しいが、扱い易いと言えば扱い易いのがこの男。
山崎と一緒にいる時間を増やしたいが為に生徒会に一緒に入り、持ち前の男気と憎めないキャラクターで今年は会長に推薦された。
一方副会長の山崎は、優しく朗らか。校内に隠れFANクラブまであるとかないとか噂される美人さん。入学式で星に一目惚れされ、1年に渡るアタックの後に校内公認のカップルになったらしい。
「ほら鍵。預けとくから放課後には返せよ?」
「分かりました、ありがとうございます。」
会長室の金庫から取り出した鍵の束の中から、一本抜き取って渡される。
その鍵をポケットに忍ばせ、代わりにメモリーを渡す。
予め交換条件を提示しなければ、どれだけの仕事を投げられるか分かったものじゃない。
「あ、星さん・・・せめて役員室じゃなくて、奥の会長室にした方が良いですよ?声、廊下まで聞こえてましたから」
隼弥の言葉に顔を真っ赤にしてフリーズする山崎にペコリと頭を下げて役員室を出る。
閉めた扉の向こうで、美人さんに怒られてしょげる会長の顔を思い浮かべながら教室へと向かう。
(1限終わったら、声掛けとくか・・・・・)
まだ誰も登校していない教室で手紙を開き、そこにある名前とクラスを再確認する。
自分の気持ちに嘘は付けない。
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│2008/12/02(火)00:00




