連れて来られた店は洒落た造りの洋風居酒屋だった。
何の見返りも無しに奢られるを善しとはしない片山の性格を考えての事だろう。当真と外で食事らしきものをする際は、決まって割り勘にしてもさほど値が張らなそうな店を見繕ってくれているらしい。
『俺が奢るって言ってんだから、素直に奢られときゃいいだろ?』
『俺はお前の女じゃねえんだから、奢られる筋合いなんてねえんだよ! 施されてるみたいなのは絶対に嫌だ!』
そんな喧嘩腰の遣り取りがあったのは、それほど前の事ではない。
スペイン料理だかフランス料理だかドイツ料理だか、良くは分からないけれど、連れ回され始めた初期の頃、当真に連れて行かれた店先で言い合いになった事がある。
片山の言葉に驚いたように目を瞠った当真が、次の瞬間吹き出した。
『そりゃそうだな、お前は男だ――悪かった、店変えるぞ』
バイトに明け暮れているような毎日ではあるけど、片山にもプライドがあるのだ。友人同士でのジュースを奢る奢らないどころではない高級そうな店。ただ酒ただ飯は大歓迎の片山でも、度を過ぎた振る舞いに素直にご馳走になります等とは言えない。
そんな片山の心情を読み取ったのか、涙の浮かんだ目元を拭いながら当真はそう言ってあっさりと店の予約をキャンセルし、チェーン展開しているハンバーク屋へと場所を変えてくれた事を思い出す。
それ以来当真は、こうして片山にも支払いが難しくない店を選んで連れて来てくれる。
意外と庶民派な店を知っている事に驚きながらも、その気遣いが嬉しくて、対等に接して貰える時間が楽しかった。
「何か飲むか?」
「あー、焼酎……飲みてえけど、こういうとこの焼酎ってあんま美味くねえんだよなぁ」
何杯かのビールを飲み干し、頼んだ料理も粗方食い尽くした所で当真から声が掛かる。
女性客を意識しているこういった居酒屋では、カクテル系の酒は多くあるものの、美味い焼酎は別ページにメニューも分けられ、値段もそこそこ。目立つスペースに出ている焼酎は、大抵コンビニでも一瓶千円程度の安物だ。
眉を寄せながらメニューを睨みつけている片山の向かいから、噛み殺した笑い声が聞こえてくる。
「くくっ、言うと思ったぜ。んじゃ、店変えるか? ツマミ無しで飲むだけなら、大して金もかかんねえだろうし」
お前の好きそうな焼酎がカウンタに並んでる店を見付けたんだ、そう言ってニヤリと笑う当真に、片山は苦笑を浮かべた。
初めからそのつもりで、フードメニューの安そうなこの店に誘ったのだろう。
どうして、ここまでしてくれるのだろうか。
たまたまあの店で顔を合わせ、初対面で片山の唇を奪った男の口からは、具体的に自分をどう思っているのか等という話はあれ以来なかった。
「なんならウチで飲んでもいいぜ? この間土産で霧島の赤をもらったんだ」
「……なぁ、何で俺にそんなに拘んの? 俺なんかと遊んで、お前は楽しいのか?」
いつものように軽口を叩く当真の顔をしげしげと見つめ、片山はずっと胸にあった疑問を口にした。
自分とは違い女も引き手数多なこの男は、何がいいのかこうして事ある毎に片山を誘う。
気の利いた話なども出来ず、当真のように柔軟な思考を持つ事も無い片山を相手にして、彼は何が楽しいのだろうか。
興味をそそられるとは言われた。
欲望の対象として見る事が出来るという事も、あの日実地で教えられた。
けれど、自分が彼に惹かれているように、当真が自分に惹かれているとは考え難いというのが、片山の素直な気持ちだった。
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